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千葉地方裁判所松戸支部 平成4年(ワ)113号 判決 1994年8月25日

主文

一  被告富士物産株式会社は、原告に対し、金六五〇万円及びこれに対する平成四年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の、被告富士物産株式会社に対するその余の請求、並びに被告住友不動産販売株式会社及び被告国際興業株式会社に対する請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告富士物産株式会社との間に生じたものは、これを一〇分し、その七を同被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告住友不動産販売株式会社及び被告国際興業株式会社との間に生じたものは、全部原告の負担とする。

理由

一  請求原因1の事実(原告の本件不動産の買い受け取得)は、各当事者間において、争いがない。

二  請求原因2の事実(本件不動産の瑕疵)について

1  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

<1>  本件建物の床面は、一、二階とも、南から北に向けて傾斜している。その傾斜の程度と位置関係の詳細は、別紙図面(一)及び(二)の各「床傾斜説明図」記載のとおりである。これによれば、その傾斜(勾配)の程度は、一階の居間西側に沿つた線において七〇分の一(五メートル四六センチの間に、七センチ八ミリ下がる)、同居間東側に沿つた線で約八八分の一(約五メートル四ミリの間に、四センチ八ミリ下がる)、二階の洋室西側に沿つた線において六七分の一(三メートル六四センチの間に、五センチ四ミリ下がる)、同洋室東側に沿つた線で七六分の一(三メートル六四センチの間に、四センチ八ミリ下がる)であることが認められる。

<2>  したがつて、床面にゴルフボールを置くと、南から北に向け自然に転がり出し、建物のドアーや家具の扉等も、少し開けると、自然に開いたり、或は閉じたりし、視覚的にも、よく見れば、柱等が傾いているように見え、歩行も、何となく身体が傾斜している方向に引かれるように感じられることがそれぞれ認められる。

<3>  右認定に反する、本件建物に傾斜はなかつた旨の証人八景俊彦の証言は、本件不動産に瑕疵があるとすれば、これを被告富士物産に売却した同証人自身が民事上の責任を追及される立場にあることを慮つた供述と認められ、措信できない。ちなみに、同証言によれば、訴外八景は、新築建物である本件不動産を購入し、昭和五九年三月に本件建物に入居してから、五年も経たないうちに引越し先を求め、平成元年一月には、新住居の申し込みをしているのである。また、訴外八景は、本件不動産売却前に、本件建物の傾斜について、訴外日本電建に修理を申し入れていた事実も窺えないではない。

<4>  そして、右建物の傾斜は、いわゆる経年変化によるものではなく、敷地たる本件土地の不等沈下に起因するものであることが認められる。そのため、本件土地の北側から南側の道路に流れるように設置されている排水施設にも影響があり、一年に二、三回、大雨の時などに、汚水が逆流して溢れ出ることもある事実が認められる。

2  したがつて、中古住宅は、現状有姿のまま購入するのであるから、たとえ多少の変形があつたとしても、それが、許容限度を超えていない限り、瑕疵とはいえない旨の被告富士物産の主張は、失当であり、採用できない。けだし、前示のような建物の傾斜は、築後の経年変化により通常生じるものとはいえないから、買受人が、前示の傾斜があることを承知で買い受けたり、価格が傾斜の存在を前提に決定されたような事情があるような場合を除き、当然これを許容すべきであるとはいえないからである。

3  よつて、本件不動産に瑕疵のあることは、明らかである(以下、これを「本件瑕疵」という。)。

三  請求原因3の事実(被告富士物産の責任)について

1  売主の瑕疵担保責任を生じさせる「隠れた」瑕疵があるというためには、買受人が、買受当時右瑕疵の存在を知らず、かつ、それについて過失がなかつたことを要する。

2  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

<1>  原告は、本件売買契約締結前、千葉県船橋市内のマンションの四階に居住していたが、一戸建ての家に買い替えたいと思い、これを探していた。そして、平成二年九月一三日、被告住友販売の社員に勧められ、本件不動産を見分したところ、周囲の環境、間取り共気に入り、これを購入することにし、同年一〇月一四日、本件売買契約を締結した。そして、右契約の調印に当たり、原告は、売主の被告富士物産と共に、本件建物の付帯設備及び状態を一応確認し、特に異常がないことを確認した旨記載された契約書に署名押印した。また、前記マンションの買受人から早目の明渡しを要請されたため、被告富士物産の了解を得て、同年一一月二二日の残代金支払日の前である同月一七日に本件建物への引越しを開始し、右マンションを明け渡した前日である同月二〇日から本件建物において宿泊するようになつたが、家中ダンボールだらけという状態のため、荷物の片付けが一段落する一二月初旬までは、妻と共に二階の和室に就寝し、一一月二七日から本件建物において炊事する生活を始めた。

<2>  原告は、同年一一月二九日、和室で休憩中、柱が曲がつているように見えたことから異常に気付き、レベルで測定したところ、部屋の北側が南側に比較してかなり低くなつており、直ちに他の部屋等も点検したところ、本件建物は、ほぼ全体に、南から北に向け傾斜していることを確認した。そして、翌一一月三〇日、直ちに被告住友販売に連絡した。

<3>  ところで、原告は、土木工事の測量を業としている者であるうえ、本件不動産について、引越しまでに三回これを見分し、かつ、一一月一七日に引越した後、同月二二日被告富士物産に残代金を支払うまでに、約一週間を経過しているが、この間本件建物の傾斜に全く気付いていない。気付いたのは、前示のとおり、同月二九日である。

被告富士物産は、右の点をとらえて、原告に過失がある旨主張する。

<4>  しかしながら、原告は、土地建物の測量を業としたことはない。のみならず、本件不動産の前居住者の訴外八景が、これを被告富士物産に売却するに際し、同被告及び仲介人の被告住友販売に対し、一見して明らかな、一階の階段そばの天井に染みがある事実のみを告げ、本件建物に傾斜のある事実を告げなかつたこともあり、原告に本件不動産を仲介し、原告と共に本件建物内に入り、これを案内した被告住友販売の社員も、また、本件不動産を、訴外八景から買い受けるに際し、及びこれを原告に売却するに際し、何度か本件建物内に入り、自らこれを点検した被告富士物産の代表取締役も、同人の依頼により本件建物のリフォーム工事を担当した訴外柏住宅の従業員も、誰も本件建物の傾斜に気付いていない。その理由を推測するに、傾斜の程度が一見して気付く程ではなかつたことと、後記のとおり、本件建物を建築するに際し、ベタ基礎工法が採用されたが、ベタ基礎工法を採用すると、建物が傾斜した場合にも、全体に傾斜するため、土台や壁等に亀裂が走る等して建物が損傷することが少ない(そのため、気付くのが遅れることがよく見られる。)うえ、本件建物のリフォーム工事が行われて、きれいになつていたこと等が原因ではないかと推認される。

したがつて、原告が、入居前にこれに気付かなかつたことについて過失があるとはいえないし、入居後残代金支払日までの一週間についても、本件建物に宿泊したのは三日のみ(比較的傾斜の少ない二階の和室において)であり、しかも、家中ダンボールだらけの状態であり、落ち着いて家の状態を点検する余裕はなかつたものと認められるから、全く予期しない家の傾斜などに気付かなかつたとしても、過失があるとはいえない。

2  よつて、本件瑕疵は、「隠れた」瑕疵というべきであるから、被告富士物産が、売主として、瑕疵担保責任を負うことは明らかである。

四  請求原因4の事実(被告住友販売の責任)について

1  原告と被告住友販売とが、仲介契約を締結し、右契約に基づき、被告住友販売が本件不動産を原告に仲介したことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、被告住友販売が、本件瑕疵を見落としたことが、原告に対する債務不履行を構成するか否かについて判断するに、まずその注意義務の程度について按ずるに、不動産仲介業たる被告住友販売は、その業務の性質に照らし、取引当事者の同一性や代理権の有無、目的物件の権利関係、殊に法律上の規制や制限の有無等の調査については、高度の注意義務を要求されるが、目的物件の物的状況に隠れた瑕疵があるか否かの調査についてまでは、高度な注意義務を負うものではない。

もとより、被告住友販売は、民法六四四条に基づく善管注意義務を負うが、前認定の事実によれば、被告住友販売の社員は、前居住者の訴外八景から、本件建物の傾斜の事実を何ら聞かされておらず、また、原告はもとより、被告富士物産の代表取締役及び訴外柏住宅の従業員も含めて、本件建物内に立ち入つた誰もが、右瑕疵に気付いていないのであるから、仲介人として、本件不動産を原告に紹介した被告住友販売の担当者が、右瑕疵に気付かなかつたことについて、善管注意義務を怠つた過失があるとはいえない。

五  請求原因5の事実(被告国際興業の責任)について

1  本件土地を含む近隣一帯が、もと水田等の軟弱な湿地帯であつたこと、訴外日本電建は、本件土地を、訴外大日本土木をして宅地造成させた後、本件土地上に本件建物を建築し、昭和五八年一二月一四日、本件不動産を訴外八景に売り渡したこと、その後、訴外日本電建は、昭和六一年一〇月一日、被告国際興業に吸収合併され、同被告がその地位を包括的に承継したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、訴外日本電建が、本件土地の宅地造成に当たり、注文主として、必要な指示をすることを怠つた過失があるか否かについて、まず判断する。

(一)  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

<1> 本件土地を含む近隣一帯は、もと水田等の軟弱な湿地帯であつたところ、訴外日本電建は、昭和五二年七月五日、千葉県知事より、右一帯の土地六五万一一三八平方メートルの地域について、都市計画法二九条に基づく開発の許可を得、右許可に基づき、訴外大日本土木に対し、右土地の宅地造成工事を、請負代金六八億円で請負わせた。そして、右許可には、原告主張のとおり、「軟弱な土地の造成及び盛り土の造成については、あらかじめ地質調査、地耐力試験等を十分に行い、地盤沈下等が起きないように措置」するほか、「造成後、建造物等に不等沈下が生じないよう、軟弱地盤対策について十分な配慮をすること」との条件が付されたことが認められる。

したがつて、一般的にいえば、訴外日本電建が、宅地造成を請負う業者に対し、右土地の状況を知らしめ、宅地造成に当たり、建造物等に不等沈下が生じないよう、軟弱地盤対策について十分な配慮をするように要請する義務があつたといえる。

<2> そこで、訴外日本電建が右義務を怠つたといえるか否かについて按ずるに、訴外日本電建が、宅地造成工事を、請負代金六八億円で請負わせた訴外大日本土木は、東証一部上場の大企業であり、かつ、その分野の専門業者である。通常、大手の専門業者が、当該土地を宅地造成するという工事を請負う場合には、右土地がどのような土地であるのか、その目的のために、どのような工事方法を採用すればよいのか等については、自己の専門的知識と経験を駆使して、当然調査しているはずであり、本件においては、前記の開発許可証自体に、「工事施行前の住所氏名」として訴外大日本土木のそれが記載されているが、訴外大日本土木としては、訴外日本電建から宅地造成工事を請け負うに当たり、当然右許可証の写しの交付を受けているか、少なくともその説明は受けているものと推認される。そして、具体的な工事方法の選択等については、当該専門業者たる訴外大日本土木の判断に委ねられたものと考えるのが担当である。

したがつて、訴外日本電建が、訴外大日本土木に宅地造成工事を依頼するに際し、工事内容等について具体的な指示をする等の実際上の必要性は考え難く、考えられるとすれば、訴外大日本土木が知り得ず、訴外日本電建が知つていた特別な事情があつたような場合であろうが、本件において、右のような事実があつたことを認めるべき証拠はない。

(二)  よつて、訴外日本電建が、注文主として、必要な指示をすることを怠つた過失があるとはいえない。

3  次に、訴外日本電建が、本件建物を建築するについて、過失があつたか否かについて、判断する。

(一)  前認定の事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

<1> 訴外日本電建は、前示のとおり、大手の専門業者である訴外大日本土木に対し、本件土地を含む一帯の土地の宅地造成工事を、請負代金六八億円で請負わせ、同工事完了後の県知事の検査も終了している。したがつて、訴外日本電建としては、一応、「軟弱な土地の造成及び盛り土の造成について、あらかじめ地質調査、地耐力試験等を十分に行い、地盤沈下等が起きないように措置」され、「造成後、建造物等に不等沈下が生じないよう軟弱地盤対策について十分な配慮」がなされたものと、信頼したものと推認される。

<2> その上で、訴外日本電建は、本件建物を建築するに際し、ベタ基礎工法を採用した。ベタ基礎工法とは、要するに、建物の敷地全体にコンクリートの基礎を打つ工法であり、柱の部分だけに基礎をおく独立基礎や建物の外周のみに基礎をおく布基礎と異なり、応力が広く分散するため、局部的に少し位地盤に不均一があつても、不等沈下を防止する機能を持つものである。

<3> しかしながら、ベタ基礎工法も、地盤が、本件のように、全体として大きく不等沈下した場合には、もとより、対応し切れず、建物の傾斜を免れることはできない。したがつて、これを防ぐためには、建物建築に当たり、予め建物敷地になるべき地盤をボーリング調査し、必要に応じ、支持地盤に達する杭打ちをして、これに対処する必要がある。

<4> そして、訴外日本電建が、本件建物の建築に当たり、右のような地盤のボーリング調査及びそれに基づき必要とされる支持杭の打設等の措置をしていれば、本件瑕疵の発生は、防げたものと考えられる。

(二)  しかしながら、訴外日本電建に対し、本件建物の建築に当たり、そこまでの注意義務を課すべきか否かについては、微妙な価値判断を要求される。

すなわち、本件土地一帯の開発許可を得、これを事業主体として施行したのは訴外日本電建であるという点を強調すれば、建物の建築に当たり、今一度、不等沈下の心配がないか否かを調査すべきであつたということになるかもしれないが、大手の専門業者に、その上に建物を建築することを予定した宅地造成工事を請負わせ、これを実施させた以上、特段の事情がない限り、これを信頼して建物の建築に着手しても、当然に過失があるとはいえない、と考えることもできる。難しい判断であるが、当裁判所は、後者の見解を採用することとする。

そうすると、訴外日本電建について、本件建物建築についての過失を問うこともできないものといわざるをえない。

六  請求原因6の事実(損害)について

1  《証拠略》を総合すれば、本件不動産について、本件瑕疵を除去するためには、左記のとおり、合計金九九〇万二六〇〇円の費用を要するものと認められ(この認定を左右するに足りる証拠はない。)、したがつて、原告は、右の損害(以下「本件損害」という。)を被つたものというべきである。

<1>  対沈下補修工事費 金七九九万円

<2>  建物補修工事費 金一四三万円

<3>  消費税 金二八万二六〇〇円

<4>  仮住居への移転費等 二〇万円

(補修工事のため、約一か月間は仮住居への移転が不可避である。)

2  ところで、被告富士物産は、仮に同被告が、瑕疵担保責任を負うとしても、その賠償の範囲は、信頼利益に限られるところ、本件損害は、すべて履行利益であつて、信頼利益に該当しない旨主張するので、この点について検討する。

なるほど、瑕疵担保責任の賠償の範囲は、信頼利益に限られるといつてよい。しかしながら、本件損害が、信頼利益に該当しないというのは、疑問である。

すなわち、一般的に、信頼利益は、「当該瑕疵がないと信じたことによつて被つた損害」、或は「当該瑕疵を知つたならば被ることがなかつた損害」と、履行利益は、「当該瑕疵がなかつたとしたら得られたであろう利益」と定義される。

右の区別は、抽象的には、一見明白である。そして、具体的な適用に当たつても、買主が、契約の目的を達しないとして、当該契約を解除した場合には、信頼利益の範囲を、買主が、当該契約締結のために費やした費用(調査費用、登記費用、公正証書の手数料、印紙代)、受入れ態勢を準備したことによる費用(建築設計費、材料購入費)、請負人等に支払つた違約金、瑕疵担保責任を訴求した費用等の損害に限定し、いわゆる転売利益等の得べかりし利益を排除するものであるとして、右の区別は、比較的明瞭である。

しかしながら、本件のように、契約を解除しないまま、買主が、いわば瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めるような場合に、右修補費用担当の損害が、信頼利益又は履行利益の、どちらに該当するかを判断することは、一転して、著しく困難になり、果して、その区別の意味があるのか否かさえ疑問になる程である。けだし、瑕疵修補費用相当額は、「当該瑕疵がなかつたとしたら得られたであろう利益」に該当するだけではなく、まさに、「当該瑕疵を知つたならば被ることがなかつた損害」にも該当すると思われるからである(本来であれば、瑕疵担保責任の意義とその本質から説き起こすべきところであるかもしれないが、周知のとおり、瑕疵担保責任をめぐる民法学説の理論的状況は、現在、より一層錯綜を極めており、当裁判所は、この点について深入りすることは控えたい。)。

もし、瑕疵修補費用相当額は、信頼利益に該当しないというのであれば、右のような場合における信頼利益とは、一体、どのようなものをいうのであろうか? 想定することが困難である。そうだとすれば、結局、瑕疵担保責任の賠償の範囲は、信頼利益に限られるといつても、それは、転売利益等の得べかりし利益を排除すれば足りるのであつて、瑕疵修補費用相当額の賠償責任まで、これを履行利益だとして全面的に否定する必要はないものというべきである。

但し、当裁判所は、公平の見地から、当該物件の売買代金の価格を超えることは許されず、右価格を、最高限度額とすべきであると考える。

3  そこで、進んで、本件損害が、本件建物の価格を超えるか否かについて判断する。

本件売買契約書(甲第五号証)には、本件不動産の価格として、金五四〇〇万円と表示されているだけであつて、本件土地及び本件建物の価格がそれぞれいくらであるかは明示されておらず、また、原告と被告富士物産との間で、口頭でも、本件土地及び本件建物のそれぞれの価格について明示的に合意した事実も認められない。

しかしながら、右甲第五号証には、売買代金五四〇〇万円は、「消費税一九万五〇〇〇円を含む」旨記載されているところ、消費税は、土地の譲渡には課されないから(消費税法五条、六条、別表第一の一参照)、本件建物の価格は、右消費税の額から逆算して算出される金六五〇万円と、黙示的に、合意されたものということができる。

そうすると、前示のとおり、瑕疵担保責任の範囲は、当該物件の価格を超えることは許されず、右価格を最高限度額とすべきであるから、原告の本件損害賠償請求は、結局、金六五〇万円の限度でこれを認容すべきである。

もつとも、この点については、本件瑕疵は、本件建物についてのみ存するものではなく、もともと本件土地の不等沈下に起因して発生した瑕疵であるから、本件土地についても瑕疵があるというべきである、と解する余地がないでもない。しかしながら、本件土地の不等沈下に起因して発生したものであつても、具体的には、「本件建物の傾斜」という被害として現われたのであり、本件建物の傾斜という事態が発生しなかつたら、本件紛争も発生しなかつたと考えられるから、損害の範囲の認定に関しては、本件建物の価格を最高限度とするのが相当である。

また、前認定のように、本件土地の不等沈下の影響は、本件土地の北側から南側の道路に流れるように設置されている排水施設にも見られ、一年に二、三回、大雨の時などに、汚水が逆流して溢れ出ることもある事実が認められるが、右事実から、直ちに、損害賠償の範囲の限度を、本件不動産の価格全額に拡張するのは相当でない。

七  結論

以上によれば、結局、原告の本訴各請求は、被告富士物産に対し、金六五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成四年四月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める限度において理由があるからその限りでこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、被告住友販売及び被告国際興業に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 増山 宏)

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